土地およびその定着物
民法総則は文字通り民法の総則であるが、広く民事的法令の一般法たる性格を持っている。
民法86条の次の規定もそうであり、その解釈・運用は建築基準法の制定・解釈、固定資産税の賦課等にあたっても前提とされている。
民法86条第1項 土地およびその定着物はこれを不動産とす。
第2項 このほかの物はすべてこれを動産とす。
解釈適用にあたって実務家(判・検・弁)、入門書を書こうとするものが先ず手にするのは有斐閣コンメンタール(注釈民法全28巻)だろう。
手にして読んだ。以下、要点をピックアップする。
土地の定着物とは、土地に固定的に付着して容易に移動しえない物であって、取引観念上継続的にその土地に付着せしめた状態で使用されると認められる物をいう。
その定着性ないし固着性は、付着という物理的要素を基調としながら取引観念によって決せられる。
土地に付着し、その状態で継続的に使用されると認められることを要する。したがって、容易に移動せしめることができる仮小舎、足場、公衆電話ボックス、仮植中の樹木、工場に簡単に据え付けられた機械のようなものは定着物ではない。
<建築中の建物がどの程度に達したときから独立の不動産になるかについては>
建物であるかどうかは社会観念によって決すべきで必ずしも物理的構造のいかんのみを標準とすべきではない。建物取引または建物利用の目的からして社会観念上独立した建物としての効用を有すると認むべきかにどうかによって決すべきである。→判例は保存登記の対象となるかにつき住宅用建物としては屋根瓦・荒壁があれば床・天井が無くても独立の建物とみている(大判昭10・10.1)。
以下私見
1 車輪のあるなしで不動産(建物)か動産(非建物)になるなど誰も言っていない。
固定的に付着していないこと、容易に移動しえることの証明方法として車輪の存在は極めて有用ということだろう。
車輪が付いていても、その動きを制限してごくわずかしか移動できないのであれば、「容易に移動しえない」に傾いてしまう。
超高層ビルの基礎が免震ゴムで少し浮いているから土地に付着していないとは言えないのと同じだ。
また、ライフラインに接続していれば「土地に固定的に付着して容易に移動しえない」の性格が強くなるだろう。
結局この辺りは通常人の一般的感覚―社会通念―にゆだねるしかない。
役人も裁判官も職権で社会通念を判断するだけ。
アメリカで多くみられる大型トレーラーハウスは確かに車輪がついているが大型ジャッキのようなもので土地に固定し、ライフラインに接続しており、少なくても日本の住宅事情を前提にする社会通念からすれば家屋(不動産)とみられてもしょうがないのではないか。
2 坂口さんの影響かどうか知らないが、家屋か車両かという区分けも変だ。トレーラーハウスを販売する会社にあっては公道を走らせるのを前提にするのだからその点意味を持つが、そうではなく、単に建物性を否定するために車輪を考えるなら、建物か動産かで考えればいいはず。
どんなに大きな家でもブルトーザーで破壊されればその時点で廃材(動産)の山になるだけ。モバイルハウスは車輪の付いた動産ということになる。